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World Barista Championship 2024|決勝7ルーティンの技術解析

2024年WBC決勝の優勝者ミカエル・ヤシン

 

はじめに

2024年5月3日から5日にかけて韓国・釜山で開催された世界最高峰のバリスタ競技会「World Barista Championship(WBC)」は、インドネシア代表のミカエル・ヤシンが見事優勝を果たし、53名の国代表バリスタの頂点に立った歴史的な大会となりました。

決勝進出を果たした7名は、World Barista Championship公式サイトの発表によると、オーストラリアのジャック・シンプソン、オランダのゼイヴォン・レマー・ジャンガ、ニュージーランドのホノカ・カワシマ、韓国地元代表のリム・ジョンファン、インドネシアのミカエル・ヤシン、日本のイシタニ・タカユキ、そして最後の追加で決勝進出を果たしたアイルランドのイアン・キシックでした。

WBCの審査基準は、エスプレッソ、ミルクベース飲料、シグネチャービバレッジの3コースそれぞれについて、味覚(Taste)技術(Technical)創造性(Creativity)、**プレゼンテーション(Presentation)**の4要素から評価されます。各バリスタは15分間のルーティンで12杯(各コース4杯ずつ)を審査員に提供し、総合スコアで順位が決定される仕組みです。

決勝ルーティン概観(30秒チャプター化)

決勝ルーティンは各バリスタが15分間で12杯(エスプレッソ×4、ミルク飲料×4、シグネチャービバレッジ×4)を提供する厳格な形式で行われます。Sprudge Coffeeの詳細レポートによると、多くのバリスタが以下のようなタイムラインで進行しました:

  • 0:00~2:00 準備・ワークフロー確認
  • 2:01~6:00 エスプレッソ抽出パート
  • 6:01~10:00 ミルクスチーミング・ミルクベース飲料パート
  • 10:01~14:30 シグネチャービバレッジ調製・プレゼンテーション
  • 14:31~15:00 最終プレゼン・質疑応答

7名のバリスタ別ルーティン技術解析

ミカエル・ヤシン(Mikael Jasin, インドネシア)

ミカエル・ヤシンの決勝ルーティン

抽出パラメータ

2021年以来の復帰を果たしたヤシンは、Ethiopian landrace variety「Aji」(コロンビア・ウイラ産フィンカ・エル・ディビソ)とGesha(パナマ・フィンカ・デボラ産)の2種類のコーヒーを使用。エスプレッソコースでは20g投入量に対し30g抽出、25秒という比較的短時間での抽出を実現しました。

ミルクテクスチャ管理

革新的な3種ミルクブレンドを採用:

  • 牛乳60% + カシューミルク20% + オーツミルク20%
  • 全て80%濃度まで水分蒸発処理
  • 3:1レシオでピーチリキュール、メロン、マジパンの風味を実現

シグネチャービバレッジ

特徴的なのはpalo santo(聖なる木)アロマインフュージョンとインドネシア産カカオニブの組み合わせ。50度Cで提供し、ハニーデューメロン、ウォーターメロン、セージの複雑な風味プロファイルを創出しました。

ジャック・シンプソン(Jack Simpson, オーストラリア)

ジャック・シンプソンのルーティン

抽出機材・パラメータ

2023年3位入賞者のシンプソンは、500Hz超低周波電磁波処理という独創的技術を導入。ポリフェノールや苦味分子を結合させ、甘味知覚を向上させる科学的アプローチを採用しました。

ミルクコース

90%全脂牛乳 + 10%凍結乾燥ココナッツミルクのハイブリッド構成で、牛乳は2時間の超低周波磁気波処理により脂肪球を結合。4:1レシオで甘いチェリー、溶けたチョコレートアイスクリーム、削ったココナッツの風味を実現。

プレゼン演出

口径の異なる特殊カップを使用し、審査員に特定の位置から飲むよう指示することで、Geshaの甘味を最大化する戦略的アプローチを展開しました。

ゼイヴォン・レマー・ジャンガ(Zjevaun Lemar Janga, オランダ)

ゼイヴォン・レマー・ジャンガのルーティン

エスプレッソレシピ

ダブル発酵ハニープロセスPink Bourbonの2バリエーション使用:

  • 96時間乳酸発酵版: 21g投入、42g抽出、20秒
  • エルダーフラワー、マンゴー、ピンクグレープフルーツの風味

ミルクロースティング技術

オランダ産MRY種牛乳から16度Cの真空蒸留で10%の水分を除去し、ココナッツミルクで置換。独特なクレームブリュレ様の風味を実現しました。

シグネチャービバレッジ

マグノリア花シロップ、ピンクエルダーフラワー、生ハチミツ、塩乳酸発酵の組み合わせで、コーラ、パイナップル、ブラッドオレンジの風味を創出。

ホノカ・カワシマ(Honoka Kawashima, ニュージーランド)

ホノカ・カワシマのルーティン

エスプレッソ抽出

Maragesha(GeshaとMaragogype の交配種)を使用し、19.5g投入、50g抽出というユニークなレシピを全コース共通で採用。金属球でのフラッシュチリング(45度C)により、ピンクグレープフルーツ、パイナップル、ハイビスカスの風味を実現。

ミルクコース

90%高脂肪牛乳(凍結蒸留で50%水分除去)+ 10%アーモンドミルクの組み合わせ。55度Cスチーミングで、チョコレートブラウニー、ショートブレッド、レーズンアフターテイストを表現。

シグネチャービバレッジ

折り紙をテーマとしたプレゼンテーションで、審査員に紙を折らせながらオレンジ、リンゴ、イチゴインフュージョンを使った独創的なコールドビバレッジを提供しました。

リム・ジョンファン(Junghwan Lim, 韓国)

リム・ジョンファンのルーティン

エスプレッソスペック

Sudan Rume種(コロンビア・カウカ産フィンカ・ラス・マルガリータス、標高1,900m)を使用。20g投入、50g抽出、92度Cの冷却球抽出で、ルビーグレープフルーツ、マスカットブドウ、レモングラスの風味を実現。

ミルクフュージョン

地元釜山出身の利を活かし、全脂牛乳を70%濃度まで蒸留、50度Cスチーミングでバニラ、キャラメル、ココナッツ、ミルクチョコレートアフターテイストを創出。

シグネチャービバレッジ

振動モーター内蔵配布ツールを使用し、ブルーベリー・パッションフルーツジュース、コーヒーサッカラム、カルダモン・シナモンウォーターでペプシコーラ風の独創的な温かい飲み物をワイングラスで提供。

イシタニ・タカユキ(Takayuki Ishitani, 日本)

イシタニ・タカユキのルーティン

エスプレッソレシピ

Gesha 16g + Caturra 2gの絶妙なブレンドで46g抽出。冷却ポルタフィルタースパウト使用により、ピーチ、オレンジ、ジャスミンの風味と、長期間持続するジャスミンティーフィニッシュを実現。

ミルクイノベーション

ライスミルクラクトースフリー牛乳を1:2で配合、51度Cスチーミング。17g Caturra + 2g Geshaエスプレッソと4:1レシオで、イエローピーチ、オレンジ、ハチミツ風味を実現。

プレゼンテクニック

ネグローニからインスピレーションを得たシグネチャービバレッジで、ローズ・松葉・ジュニパーベリーインフュージョン(ジン代用)、パイナップル・ブラウンシュガー発酵(カンパリ代用)、バニラビーン入りGesha(ベルモット代用)の革新的な組み合わせを披露。

イアン・キシック(Ian Kissick, アイルランド)

イアン・キシックのルーティン

抽出レシピ

事務的ミスで準決勝から決勝へ最後に追加されたキシックは、白ハニープロセスGesha(コロンビア・キンディオ産フィンカ・エル・プラセル、標高2,000m)を22g投入、60g抽出、310秒という極端に長い抽出時間で22.5%抽出率を達成。

ミルクテクニック

50%凍結蒸留ジャージー牛乳 + 50%凍結蒸留オーツミルクのハイブリッドを55度Cスチーミング。伝統と革新の融合により、マンゴー、ピーチ、ラムレーズン、カカオニブの複雑な風味を表現。

シグネチャービバレッジ

カフェの顧客との共同開発によるビルベリーシロップ缶詰パイナップルジュースホエイを組み合わせた超冷却ビバレッジで、ラズベリー、ピーチ、白ブドウの風味を実現しました。

技術比較総括

使用ミルク別まとめ

2024年大会では代替ミルクの使用が全面解禁され、各バリスタが独創的なミルクブレンドを開発:

  • ヤシン: 3種混合(牛乳60% + カシューミルク20% + オーツミルク20%)
  • シンプソン: 牛乳90% + ココナッツミルク10%
  • カワシマ: 高脂肪牛乳90% + アーモンドミルク10%
  • キシック: ジャージー牛乳50% + オーツミルク50%

抽出パラメータの傾向分析

決勝進出者の抽出データ分析:

  • 投入量: 18g-22g(平均19.8g)
  • 抽出量: 30g-60g(レシオ1.4:1-2.7:1)
  • 抽出時間: 20-310秒(大部分は25-30秒)
  • 水温: 92-94度C

特に注目すべきは、キシックの310秒という極端な長時間抽出と、ジャンガの20秒という短時間抽出の対照的なアプローチです。

今後の競技技術トレンド予測

2025年版に向けた技術革新ポイント:

  1. 科学的処理技術の進歩: シンプソンの電磁波処理のような物理的介入
  2. 代替ミルクの多様化: 単一代替から複数種ブレンドへの進化
  3. 発酵技術の精密化: より複雑な二次・三次発酵プロセス
  4. プレゼンテーション革新: インタラクティブ要素の導入拡大

まとめ

2024年WBC決勝は、技術革新とクリエイティビティが融合した歴史的な大会となりました。優勝したミカエル・ヤシンの3種ミルクブレンドから、シンプソンの電磁波処理、カワシマの折り紙プレゼンテーションまで、各バリスタが独自の哲学と技術を披露しました。

自宅でできるWBC方式のタイムトライアルに挑戦してみませんか?15分間で3コース各4杯の調製を目指し、抽出パラメータの精密化とプレゼンテーション技術の向上を図りましょう。

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